「もののけ姫」は1997年に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品である
今回は物語の序盤に登場し、最後の最後までアシタカ達を困らせた「タタリ神」について考えていこうと思う。
特に、「タタリ神」とは何だのか、そして、なぜ「もののけ姫」という物語に「タタリ神」が出てくる必要があったのか、ということを考えていきたい。
まずは、「もののけ姫」を見たすべての人が感じた「タタリ神」の矛盾を振り返ろう。
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「もののけ姫」におけるタタリ神
タタリ神の矛盾
「もののけ姫」の本編に登場した「タタリ神」は、物語の序盤に登場したナゴの守と、終盤で暴走した乙事主である。
ナゴの守も乙事主も、「タタリ神」としての力を手に入れた後にタタラバにとって返して暴れまくるべきだった。
それにも関わらずナゴの守は東へ猛進してアシタカの集落を襲ったし、乙事主は守るべきシシ神の元に人間どもを誘導してしまった。
つまり、「タタリ神」になったものはどうやら狂ったことをしているのである。
それは何故か?
憎しみとは狂うこと
「タタリ神」が象徴しているのは「憎しみ」であることはある程度明らかだと思うのだが、大事なことは「タタリ神」を通じて「憎しみ」が露骨に表現されているということだろう。
つまり、「『憎しみ』にとらわれてしまったものは攻撃そのものが目的となり誰とものなく攻撃対象にしてしまう」ということが描かれているのではないだろうか。
「憎しみ」に囚われた人間は最初に攻撃したいと思った対象を忘れ、全てが敵になってしまうのである。
しかも、「憎しみ」は最初にその根源になった対象に対する「恐怖」も内在している。だからこそナゴの守は東へ猛進したし、乙事主はシシ神の元へ走ってしまったのである。
「憎しみ」とその根源に対する「恐怖」という2つの側面を見事に描いたのが「タタリ神」だったのだと思う。
こういったことが私が個人的に考える「『タタリ神』とはなにか」という問に対する答えになるのだが、いちばん大事なことは、なぜ「もののけ姫」に「タタリ神」が必要だったかである。
憎しみは災厄である
「もののけ姫」で描かれる重要な要素のひとつは「理由もなく自らにふりかかる『なにか』」である。
「風の帰る場所」という本の中で「アシタカはいきなり冒頭で呪われますよね。あれは一番最初で呪われることにすごく大きな意味が ありますよね。」というインタビュワー(渋谷陽一さん)の問に答えて次のように語っている:
「そうですね。不条理に呪われないと意味がないですよ。だって、アトピーになった少年とか、小児喘息になった子供とか、エイズになったとか、そういうことはこれからますます増えるでしょう。不条理なものですよ。」
アシタカの集落を襲ったタタリ神も、それから受けた呪いも不条理な「なにか」だし、サンが実の親に捨てられ山犬に育てられたことも「なにか」であるし、ナゴの守が石火矢に至れたことも「なにか」としか言いようがないのである。
そこに理由をもとめてもどうすることもできないような「なにか」としか言いようがないのである。
そして「タタリ神」はそういったどうしようもない「なにか」を具現化した存在として物語の中に登場している(特にナゴの守は)。一方でその「タタリ神」は「憎しみ」の象徴でもある。
つまり、「憎しみ」とは「災厄である」というメッセージが見て取れるのである。
先述したように「憎しみ」は発散し、それに囚われた人は攻撃そのものが目的とかしてしまう。そういった人の近くに偶然居合わせた人は攻撃の対象になってしまうかもしれない。それを「災厄」という言葉以外に表現することはできないだろう。
どれほど理由を求めても存在しない。その根本が「憎しみ」であるから。
それでもなお、その「憎しみ」を払いのけ、新たな一歩を踏み出そうと賢明に訴え続けたのがアシタカであった。
つまり、「もののけ姫」に「タタリ神」が登場した理由は:
自分ではどうする事もできない「なにか」と戦わざるを得ない人々がいるという状況下、そういった人の中にある憎悪、呪い、怒りというものを象徴する存在が必要であったらである。そして主人公としてのアシタカが叫んだように、「憎しみに身を委ねないでほしい」という願いを強調するために「タタリ神」という存在が必要だった。
ということになると思う。
私は狂うほどになにかを憎んだことはないが、それが普通のことではないとても幸福なことであることを知っている。なぜなら私は「もののけ姫」を見たのだから。
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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