「君たちはどう生きるか」は2023年7月14日に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品である。
一切宣伝を行わないという基本方針の元、映画公開までポスターイメージと「君たちはどう生きるか」というタイトル以外全くと言っていいほど情報がなく、登場人物の名前、ビジュアルすら全くわからない状況での公開となっていた。
それは声優も同様で、わずかに主人公眞人の父 勝一の声を担当した木村拓哉とアオサギを担当した菅田将暉の「におわせ」がSNS上でわずかにあったに過ぎず、本編を見るまで誰の声をやっているか全く分からなかった。菅田将暉に至っては名演過ぎて本編見たって分からなかった(というか結局全員素晴らしい名演だったと思う)。
今回はそんな「君たちはどう生きるか」の登場人物と声優を振り返りながら、それぞれの魅力や物語について考えていこうと思う。
以下の文章では不意にネタバレが挟まれますので、その点はご注意ください。
「君たちはどう生きるか」の主要な登場人物&声優一覧
名前 | 年齢 | 声優 |
---|---|---|
眞人 | 11歳 | 山時聡真 |
青サギ・サギ男 | ? | 菅田将暉 |
キリコ | ? | 柴咲コウ |
ヒミ | ? | あいみょん |
夏子 | ? | 木村佳乃 |
勝一 | 37歳 | 木村拓哉 |
インコ大王 | ? | 國村隼 |
大叔父 | ? | 火野正平 |
登場人物&声優の基本情報とキャラクター考察
眞人|声優:山時聡真
眞人(まひと)の基本情報
物語の主人公、11歳(小学校6年生)。フルネームは牧眞人(まきまひと)。物語のスタートと共に、入院中の母を病院の火事で失うという経験してしまう。
戦争の激化に伴い母の故郷に移り住むことになるが、その時には母の妹 夏子は、父 勝一の子供を身ごもっていた。
○眞人が感じた「疎外感」と謎の塔
母の故郷に移住したあとも、父 勝一は眞人に愛情を注いでいた(少々一方的ではあったが、勝一の態度については後述する)。しかし、母の育った「青鷺屋敷(あおさぎやしき)」で生活を初めた眞人は強烈な「疎外感」も感じていたと思われる。
父は夏子との生活を始め、夏子は父の子供を身ごもっており、形式的な状況は三対一。眞人は「青鷺屋敷」を自分の居場所とは思えずにいたのであろう。
そんな時に、屋敷の庭に住み着いていた青サギに誘われるように不可思議な塔に興味を持った眞人は「ここではない何処か」を目指していたのだと思う。
彼は「青鷺屋敷」にいたくなかったのである。
○青サギの誘いと最後の抵抗
眞人が屋敷にいたくなかったとして、青サギの「母は生きている」という言葉は眞人にとってはこれ以上ない「誘い文句」であったはず。これが宮崎作品でなければ、青サギのそのような誘いで眞人は大叔父の塔に向かったのだと思う。
しかし眞人は、青サギのその言葉に頑なに抵抗し、むしろ青サギを駆逐しようと弓矢を作る始末であった。
つまり眞人は、「母は生きている」という言葉にひかれながらも、自分が受け入れようとする悲しい現実を否定する青サギと敵対することによって「受け入れるべき事実」と闘っていたのである。
「君たちはどう生きるか」がファンタジーに突入するために絶妙な時間を要した理由には、眞人のこのような内面の葛藤にあると思われる。
○大段落としての「君たちはどう生きるか」
そんな眞人が最終的にファンタジー世界に踏み入る直前に読んだ書籍こそが「君たちはどう生きるか」であった。それは眞人の母の「遺言」であった。
眞人は母が残してくれたその本を読むことによって、ようやく母の死を受け入れ次の一歩を踏み出す気になったのである。
つまり、「君たちはどう生きるか」を読んだあとの眞人は青サギがどれほど誘おうともあの塔には行かなかった。
彼が不可思議な塔に進軍した理由は夏子さんがそこに向かってしまったからである。つまり、母を救うためだった。
眞人の決定的な行動が「青サギ」の言葉によるもでなかったということは大事なことであると思う。
○眞人の悪意と物語の顛末
宮崎監督一流のファンタジー世界を旅した眞人は、最終的にその世界を否定し、大叔父のあとを継ぐことを拒否する。彼なりの「言い訳」の一つは自らの手はすでに悪意で汚れているということだった。
そしてその悪意の象徴は彼の頭部についた傷と主張する。随分と分かりづらい表現であったが、その内容を考えてみると、
- 「学校に行きたくない」というのが負けた気がしたため、大怪我を追うことで父を利用しようとした、
- 大怪我を追った自分を夏子がどのように取り扱うかを見ようと考え、夏子を試した、
といったことが考えられるだろう。
いずれにしても「状況に対する批判」があるのにもかかわらず子供であるという立場を利用してそれを隠蔽したことになる。したがって「悪意」なのだろう。
しかし、彼は自分のなかにあった悪意を受け入れ、自分の自由にできる利己的な世界(大叔父の石をついで作る世界)ではなく、元の雑多で、必ずしも自分の自由にならない世界を選んだ。
結局の所、「君たちはどう生きるか」という作品は少年が現状を懸命に受け入れていく物語と簡単にまとめる事もできるかもしれない。
宮崎駿としての眞人
ここまでは物語の表層にそって眞人を見てきたが、彼の父 勝一が実評価でありかる戦闘機を製造しているという事実を鑑みると、眞人は宮崎駿の分身であること考えざるを得ない。宮崎駿監督の父 宮崎勝次は宮崎航空機製作所の社長であった。
ただ・・・「君たちはどう生きるか」という作品において、眞人だけに宮崎駿が投影されているわけではないし、眞人に宮崎駿だけが投影されているわけでもないと思われる。このへんの重層構造が「君たちはどう生きるか」の面白みであると個人的には思う。
この辺のことに関しては以下の記事で詳しく述べている:
皆さんはどのように考えるだろうか。
声優の山時聡真
声を担当したのは俳優の山時聡真さん公開当時で18歳であった。
アニメーションの声優としては「君たちはどう生きるか」が最初のようであるが、他の声優同様に名演であった。
手渡された台本には宮崎駿監督からの「練習しすぎないように」というメッセージが挟まっていたそうな。
青サギ・サギ男|声優:菅田将暉
青サギ・サギ男の基本情報
「青鷺屋敷」の庭に住み着く青サギであり、言葉巧みに眞人を大叔父の建てた謎の塔に誘い込んだ。なんとも不気味な雰囲気を醸し出していたが、その実態(?)は鼻デカおっさんであった。
当初は眞人に対して明確な悪意を持って対峙していたが、それがどんどん憎まれ口に変わっていき、最終的には見事なバディとなっていった。
少々シビアな物語の中で、見事なコメディーリリーフを演じきってくれた存在でもある。
鈴木敏夫としてのサギ男
眞人の項で書いた通り、眞人は宮崎駿の分身である。では、その眞人を惑わしながら、結局最後の最後までバディとしてともに付き添い続けた青サギは一体誰を表現しているのか?
もちろん答えは一つしかない。鈴木敏夫である。
ジブリ設立前から宮崎駿や高畑勲と交流があり、彼らと共にず~っとアニメーションを作り続けてきた。
激烈な衝突があったことも鈴木敏夫本人によって語られているが、それでもなお、我々が簡単には想像もできないような密度で共にアニメーションを作り続けてきたという事実がある。
「君たちはどう生きるか」で描かれた大叔父の作り上げた不可思議な世界が宮崎駿の「創造の世界」だったとするなら、この物語は宮崎駿と鈴木敏夫が歩んできた道をもう一度確認する物語だったと考えることもできるかもしれない。
声優の菅田将暉さん
声を担当したのは俳優の菅田将暉さん
「宣伝をしない」という姿勢が徹底されていた「君たちはどう生きるか」の声優キャスティングの中で最も我々を驚かせたのが菅田将暉だっただろう。エンドロールを見るに確かに菅田将暉を誰かの声を担当しているし、順番から言って極めて重要なキャラクターである。
では誰か?サギ男であるという予測を立てることが出来た人は多かったと思うが、スタジオジブリ公式のXにおいてそれが明言されたときの衝撃は大きかったし、あまりにも名演過ぎて「逆に何故菅田将暉なんだ?」という疑問が浮かぶほどであった。
アフレコの前後でどのような発注を出せば、あのような声になったのだろう。極めて謎である。
キリコ|声優:柴咲コウ
キリコの基本情報
「青鷺屋敷」の七人の老婆の一人として登場し、夏子を探すために謎の塔に向かった眞人について結局大叔父の作った世界までついていった。ところが、その世界のキリコは若々しい姿で再び眞人の前に姿を表す。
結果的にこの作品における「時間と空間」を根本的に理解し難いものにしている存在となっている。
まず問題となるのは、若い姿で現れたキリコは一体どこから来たのか?ということになる。一つの考え方としては、眞人と一緒に来たキリコが若い姿で現れたということもあるのだが、それだとどうしてもおかしい。キリコはあの世界に精通しすぎているし、不可思議な魔法のちからも持っている。その力はいつ手に入れたのか?
あの世界にいたキリコは眞人と一緒に行ったキリコではないと考えるべきだろう。ではどこから来たのか?
ギリギリヒントとなり得るのは物語のラストで、ヒミと同じ扉から帰っていく姿が描かれたという事実だろう。
つまり、キリコはヒミ(ヒサコ)が神隠しにあったときにヒミと一緒にあの塔の世界に迷い込んだという考え方しかないと思う。本編では眞人についてあの世界に迷い込んだが、過去においてはヒミに付き添ってあの世界に迷い込んでいたのである。
しかもヒミは現実世界では1年という時間を経過した後に元の世界に戻っているので、ヒミもキリコもそれ相応の時間をあの世界で過ごしていたことになる。その中で大叔父から力を付与されたのか、魔法の力を持つに至った。
ただ、それでも少々矛盾がある。キリコがヒミと共に神隠しにあったとして、元の世界に戻ってから眞人の前に現れるまでの時間を考えると年を取りすぎている。当時の結婚適齢期を考えるに、ヒミが元の世界に戻ってから30年後に勝一と結婚したとは到底考えられない。どう考えてもキリコは年を取りすぎている。
あの物語世界での整合性を考えるなら、すでに年を取っているキリコを大叔父が活動可能な年齢まで若返らせたと考えるしかないだろう。恐らくキリコはヒミと一緒に扉の向こうに行ったあと、結構年を取ったのではないだろうか。
キリコは保田道世さんではないか?
考えれば考える程に状況を混乱させるキリコであるが、そんな面倒な存在をわざわざ作品に入れ込んだ理由を考えるとある可能性が見えてくる。恐らくキリコが表現していたのは保田道世さんではないだろうか?
保田さんは東映動画からの宮崎監督の盟友であり、スタジオジブリにおいても「仕上げ」、「色彩設定」を統括する存在として宮崎監督と共に作品を作り続けてきた人である。
「仕上げ」というと分かりづらいが、例えばセルアニメにおいて「仕上げ」とは基本的にはセル画に色を塗る仕事である。「セルに色を塗る」とだけ言うと簡単に聞こえるかもしれないが、セルの裏側から色を塗り、表から見て完璧なものになるように塗り切るという極めて難しい仕事である。私も映像でしかその仕事を見たことはないが驚嘆すべき仕事である。現代的にはPCを使って色彩されていると思われるが、それでもその仕事量を考えれば大変なものである。
また「色彩設定」も極めて大変な仕事であり、我々が見てきたすべてのカラーアニメーションにはこの「色彩設定」をしている人がいる。「何が何色か」ということを設定してしている人である。これも言葉にすると簡単だが、その作品の画像設計の意図に応じて「正しい色」は変わるわけである。それを指定する仕事が「色彩設定」。そのおかげで私達は「自然な」カラーアニメーションを見ることが出来ている。
そんな保田道世さんは2016年10月にこの世を去っている。映画のパンフレットを見るに、宮崎監督が企画書を書いたのは2016年7月。まだ保田さんは亡くなっていなかった(健康だったかは分からないが)。結局監督は企画書を書いたあとに「戦友」の訃報を知ったことになる。
初めからその意図があったかはわからないし、あるいはあとから知ったからこのように「時間と空間」が分けの分からない作品になったのかもしれない。
ただ、「あの世界」で最初に眞人を助けたのがキリコで、その後に助けたのがサギ男であるという事実は、保田さんが東映動画における先輩で、鈴木敏夫がそのあとに出会った相棒であることを表してるように見える。もちろんサギ男に再開した後に、キリコが相棒ではなくなったわけではない。だから眞人はキリコからもらった「キリコの人形」を持ち続けていたのである。保田道世さんは宮崎監督の戦友であり続けたのである。
ネット情報を調べるに、宮崎駿の東映動画入社は1963年(大学卒業後)、保田道世さんは1958年(高校卒業後)となっている。宮崎監督が鈴木敏夫と出会うのはそのず~っとあとのことである。
だた、「キリコは保田さん説」の根拠が薄いことはわかっている。ただ、このように考えると、物語のらすとで「キリコがヒミと同じ扉に進み」、「眞人とサギ男が同じ扉に進む」という現象を理解できる。
ヒミ(宮崎監督の母)とキリコ(保田道世)はすでに鬼籍に入っており、眞人(宮崎駿)とサギ男(鈴木敏夫)はまだ生きているのである。だらか彼らは別の扉から帰った。
結局「時間と空間」の整合性は取れていないのだが、キリコは保田道世さんとうことで決まりではないだろうか?
声優の柴咲コウさん
声を担当したのは俳優の柴咲コウさん。アニメーションの声優としては「真救世主伝説 北斗の拳 ラオウ伝」のレイナ、「神在月のこども」の葉山弥生などの約も担当している。
ヒミ|声優:あいみょん
ヒミの基本情報
眞人が迷い込んだ「下の世界」で出会った謎の少女。その実態は、かつて眞人と同じように大叔父の世界に迷い込んだ眞人の母ヒサコであった。
ヒミは火を操る不思議な力(魔法)を持っており、その力を使いながら眞人の夏子を探す旅を助ける。
最終的には眞人の母になるため、元の世界に帰っていった。
宮崎駿の母としてのヒミ
主人公眞人の父 勝一が航空機製造会社の社長であることを鑑みるに(そしてそれが露骨に描かれていたことをも鑑みると)、眞人が宮崎駿の分身であることはほぼ明らかなこと思う。宮崎駿監督の父 勝次は宮崎航空機製作所の経営者であった。
となると、眞人の母であったヒサコは宮崎駿監督の母の分身であるということになるだろう。
宮崎監督が最も露骨に「母」を描いたのは「崖の上のポニョ」であったと思うが、今回も露骨に「母」を描いたのだと思う。ただ、これまでとは少々毛色の違う描き方がなされていたと思う。その辺のことは以下の記事にまとめている:
「君たちはどう生きるか」における「母」の表現はこれまでと何が違ったのか。そしてヒミは何故火を操るのか。この辺のことを考えることは十分面白いことだと思う。
声優のあいみょんさん
声を担当したのはアーティストのあいみょんさん。アニメーションの声優としては「クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜」で本人役を演じている。
今回は「クレヨンしんちゃん」とは違い完璧に役を演じることになっているので、実質的には「初の声優としての仕事」と言えるのかもしれないが、結果的に他の声優(俳優)に引けを取らない名演であった。声優の仕事も増えていくのかもしれない。
夏子|声優:木村佳乃
夏子の基本情報
主人公眞人の義理の母。義理と言っても実母の妹である。入院中の眞人の実母ヒサコは病院の火事で亡くなってしまった。眞人の父は
戦前はこういうことは普通にあったことで、戦争で夫をなくした人がその兄弟と結婚をするということもあった。
ただ、それが社会的な常識であったとして、それが子供にとってどうであったかはまた別の問題である。そして主人公眞人はまさにそういう問題と直面したのである。
そして、眞人が子供であるが故に、ついつい我々は眞人の方に感情移入、あるいは同情の念を抱いてしまうのだが、夏子にとっても眞人を受け入れるということは一大事業である。
確かに夏子は大人であるけれど、適切な状況を実現するにはどうしても眞人の協力も必要となる。でも眞人は子供である。しかも実母との十分な時間を経ることなくそれを失ってしまっている。
そのような中、夏子さんも懸命に眞人を受け入れ彼の「母」になろうとしたわけだが・・・妊娠という状況がある中で、自分のことしか考えられなくなってもおかしくはないだろう。夫の勝一の帰りは遅く、身重のまま眞人の世話をしていたのである。自分の子供でもないのに。
そんな夏子が「自分の子供を安心して生むことが出来るどこか」を望んだとしてもおかしくはないだろう。夏子が塔のなかに入り込んだ理由はこういう思いがあったものと思われる。「ここではない何処か」を夏子は望んだ。
そして、そんな夏子を取り戻すための旅に出たのが眞人だった。
眞人自身も状況に対する不満があったわけだが、母が残してくれた「君たちはどう生きるか」を読むことで、彼は自分の中にある「母」という存在を受け止め、夏子を母として受け入れることを決めた。しかし、そんなこと夏子には伝わっていはいないし、そのタイミングで夏子は「向こうの世界」に旅立ってしまったのである。
そのような状況下、夏子の気持ちを根本的に変えたのは眞人の「おかさん」という一言であると思うし、結果的には夏子さんはその言葉に応えたことになる
つらいのは子供ばかりではない、苦しいのは子供ばかりではない。
そんな「親の苦しさ」を「君たちはどう生きるか」の中で一挙に受けてくれたのが夏子さんなのだと思う。
でも、そんな夏子さんは結局「今」を選択する。「君たちはどう生きるか」という映画はそういう「今を肯定する映画」であった。私はそう思う。
声優の木村佳乃さん
声を担当したのは俳優の木村佳乃さん。アニメーションの声優としては「中華一番!」のメイカ、「それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島」のバンナ、「映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか」のメドゥーサ役などを担当している。
他の声優同様に、ぼう~っとしていると木村佳乃さんだとは気づかないのだが、「下の世界」で「あなたなんか大嫌い」と絶叫したシーンでは僅かに特徴が出ていたと思う。が、そのシーン以外では全く気が付かなかった。それが良いことかどうかは分からないが。
勝一|声優:木村拓哉
勝一の基本情報
主人公眞人の父親、37歳。航空機製造会社を経営している。
主人公である眞人に溢れんばかりの愛情を注いでいるようではあるが・・・少々空回り気味ではある。
「かぐや姫の物語」の翁のように見ているこちらがハラハラしてしまうような言動を繰り返していた。
しかしそんな私達の思いは、刀を振るって眞人を守ろうとした勝一の姿を見て一変する。いい親父じゃないかと。
宮崎駿の父としての勝一、宮崎駿本人としての勝一
先述の通り勝一は航空機製造会社を経営しているわけだが、宮崎監督の父 勝次も「宮崎航空製作所」の(実質的な)経営者であった。
そのことを考えるに勝一当存在に宮崎監督の父が乗っかっていることは間違いないだろう。
その一方で、勝一には宮崎駿本人の分身でもあると私には思える。その辺のことに関しては以下の記事で述べている:
一人の登場人物のなかに色々な人が投影されているのがこの作品の特徴であると個人的には思える。
声優の木村拓哉さん
声を担当したのは俳優の木村拓哉さん。ジブリ作品では「ハウルの動く城」でハウル役を演じていた。
個人的にはハウル役も素晴らしかったが、今回も負けず劣らずの名演であった。「ハウルの動く城」の時のもすでに長女が誕生していたと思うが、今回は二人の娘を手が離れるところまで育てきったところでの父親役である。大分気持ちも乗っかっていたことだろう。素晴らしかったと私は思う。
ワラワラ|声優:滝沢カレン
ワラワラの基本情報
眞人が迷い込んだ「下の世界」に登場した何やら可愛らしい存在。その実態は人間がこの世に生まれる前の姿であった。
「風の谷のナウシカ」ではテト、「天空の城ラピュタ」ではちびのマッジ、「となりのトトロ」ではマックロクロスケ、などなどなど、宮崎作品には暴力的に我々をホッコリさせる存在が登場するが、今回も見事にやられてしまった。
ただ「下の世界」は結局のところ大叔父の作った世界であるわけだから。「ワラワラが人間の転生する前の姿である」ということは映画内の世界においてもフィクション、想像上の事実と考えざるを得ないと思う。
更に「君たちはどう生きるか」もフィクションなんのであるから、「ワラワラ」という存在とその実態は「フィクション内におけるさらなるフィクション」ということになるだろう(インコ大王やペリカンも同じ立場になると思う)。
この辺の不可思議な構造も「君たちはどう生きるか」の特徴だろう。あの映画を把握し切るということは極めて困難なことであると思う。
声優の滝沢カレンさん
声を担当したのはタレントの滝沢カレンさん。
スタジオジブリの作品は「このキャラクターにも名のある人物がキャスティングされてんの!」と驚いたことが何度かある。一番驚いたのは「ハウルの動く城」のヒン役の原田大二郎であった。全く人語を発さない存在にわざわざ大原大二郎がキャスティングされていたことを知ったときには驚くとともに少々笑ってしまった。
また「崖の上のポニョ」ではポニョの妹達を矢野顕子が担当していた。
そして今回が滝沢カレン。どうすればああいう声が出るのか。そしてどうしてこういうキャスティングをしようと思えるのか。全く持って謎であるが、結果的にワラワラが極めていいキャラクターになっていたと思う。不思議なもんです。
インコ大王|声優:國村隼
インコ大王の基本情報
「下の世界」に登場した幾多の擬人化されたインコたちの王。元は大叔父があの世界に持ち込んだ存在であるようだが、大叔父に対して世界の支配権を渡すように迫った。
インコ大王やインコたちが何を意味するかは少々分かりにくいがある程度考える事はできる。このことについては「老ペリカン」の項でまとめて記述することにする。
声優の國村隼さん
声を担当したのは俳優の國村隼さん。アニメーションの声優としては「風立ちぬ」の服部、「えんとつ町のプペル」のダン役も演じている。
近年ではどうも「悪い社長役」のイメージがあるが、今回もインコたちを統率する役割を持っていた。ただ、「悪役」ということではなかった。結局のところ声に「すごみ」があるのでトップに君臨する役が実写、アニメに関わらず似合ってしまうのだろう。「風立ちぬ」の服部役も同じような説得力を持った存在であった。
老ペリカン|声優:小林薫
老ペリカンの基本情報
「下の世界」に登場し、人間に転生しようとするワラワラを捕食する存在として登場したペリカンの一羽。ヒミの力によって致命傷を受け、最終的には眞人によって埋葬された。
これまでの作品の登場人物の象徴としてのペリカン(インコ)
インコもペリカンもどうやら大叔父があの不可思議な世界に持ち込んだもののようである。その上で老ペリカンの命が尽きるその時に語ったことは極めて苦しみに満ちていた。
それを一言で述べるならば「我々にはなんの自由意志もなく、ただ役割が与えられていただけ」ということになるだろう。
あの世界が「石の力」によって大叔父によって作り出された世界であり、更にその大叔父が宮崎駿の分身だとするならば、インコやペリカンが象徴するのはこれまでの宮崎作品に登場したキャラクター達ということになるだろう。
どれほどその登場人物に寄り添おうとしても「作りての都合に合わせて役割を演じる」という構造はどうしても否定しきれない。そいういう上体に対するある種の罪悪感の現れが老ペリカンの独白であり、インコたちの氾濫だったのではないだろうか。
一方で、そういった罪悪感の存在は宮崎監督がそれぞれの登場人物に思い入れがあることの裏返しでもある。作家とは誠に矛盾に満ちた存在である。
声優の小林薫さん
声を担当したのは俳優の小林薫さん。アニメーションの声優としては同じジブリ作品の「もののけ姫」のジコ坊、「ギブリーズ episode2」のトシちゃん、「ゲド戦記」の国王役を演じている。
今回は登場時間こそ少なかったが、主人公眞人に重要な示唆を与える存在を演じていた。
大叔父|声優:火野正平
大叔父の基本情報
嘗ての「青鷺屋敷」の主人であり、謎の塔の中で姿を消した人物。夏子の説明によると「本の読みすぎでおかしくなった」ということであった。
しかし、姿を消した大叔父は何十年もかけてせっせと自分の創造の世界を作り続けており、その世界の創造を血族である眞人に継がせるために、青サギ・サギ男を利用して眞人を塔に誘い込んでいたのだった。
最終的に眞人は大叔父の作った世界を否定したことで、その世界と塔は崩れ去ってしまった。それでもなお大叔父は満足げであった。
宮崎駿としての大叔父
「君たちはどう生きるか」で描かれたファンタジー世界はどう考えても宮崎駿の内面世界であり創造の世界だろう。となると、お大叔父は宮崎駿の分身ということになる。
2023年12月16日NHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀 ジブリと宮﨑駿の2399日」に於いて、宮崎監督本人が「大叔父のモデルは高畑勲である」という旨の発言をしている。したがって上のような考え方は基本的に間違いということになるのだが・・・本編を見る限りどう考えても高畑勲には見えない。
高畑勲を描こうとはしたのだが、結局自分を描いてしまったということになると私は思う。
そう考えたときに「君たちはどう生きるか」という作品の顛末はどういう意味をもつだろうか?
一つの考え方としては、すでに古くなってしまった自分を否定し「幕引き」を描いたということも出来ると思う。崩壊した塔は「スタジオジブリ」であると考えることも出来るだろう。
ただその一方で、もうひとりの宮崎駿の分身 眞人が「下の世界」の石を現実世界まで持ってきてしまったということの意味合いがわからなくなってしまう。
「君たちはどう生きるか」で描かれていることに網羅的な整合性を求めるのは間違っているかもしれないが、眞人が持ち帰った石を込めた物語の意味合いについては以下の記事で長々とまとめている:
皆さんはどのように考えるだろうか。
声優の火野正平さん
声を担当したのは俳優の火野正平さん。アニメーションの声優としては「チャーリーブラウンとスヌーピー」の運転主役も演じている。
その他の登場人物と声優
7人の老婆
夏子の屋敷(青鷺屋敷)で眞人の世話をしてくれた7人の老婆。現状名前がわかっているのは5人。声優がわかっているのは4人となっている。
「君たちはどう生きるか」英語吹き替えの声優一覧
キャラクター名 | 声優 |
---|---|
牧真人 | ルカ・パドヴァン |
サギ男 | ロバート・パティンソン |
ヒミ | 福原かれん |
夏子 | ジェンマ・チャン |
牧勝一 | クリスチャン・ベール |
大叔父 | マーク・ハミル |
キリコ | フローレンス・ピュー |
老ペリカン | ウィレム・デフォー |
インコ王 | デイヴ・バウティスタ |
いずみ | Denise Pickering |
うたこ | バーバラ・ローゼンブラット |
エリコ | メローラ・ハート |
アイコ | バーバラ・グッドソン |
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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