映画「もののけ姫」は1997年に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品である。私自身は公開当時小学校高学年であった。「もののけ姫」は未だに国内の映画興行成績の10位に入るくらいの大ヒット作品となっている。興行成績も素晴らしく、公開当時でも193億円を記録し、コロナ渦での再演を含めると201億円にのぼる。(以下の文章における興行収入は「映画ランキングドットコム」による)。
スタジオジブリの作品としては1995年公開の近藤喜文監督の「耳をすませば」から2年後に公開された作品ということになるが、宮崎監督作品の長編としては、1992年公開の「紅の豚」から5年という時間が立っていることとなる。「紅の豚」の興行収入54億円も、当時の劇場用アニメの興行成績を塗り替えており、「宮崎作品」は多くの人の支持をすでに得ていることが分かる。
その後も「耳をすませば」の脚本、絵コンテを担当し、MVである「On Your Mark」の制作、漫画版の「風の谷のナウシカ」の執筆(完結)をしており何もしていなかったわけではないが、当時のファンとしては随分待たされた気持ちだっただろう。
当時の私自身のことを思い出してみると、「期待値無限大」で映画館に向かったことが思い出される。当時小学生だった私の期待値がなぜ「無限大」になったのかを振り返りながら、「もののけ姫」の興行収入の謎に迫ろうと思う。
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とんでもないCM攻勢
金曜ロードショーの特報
当時はインターネットもあまり普及していなかったし、特段自分で映画、アニメの情報を取りに行くようなことはなかった。そんな私が一番最初に「もののけ姫」の情報を知ることになるのはもちろん「金曜ロードショーの特報」ということになる。当時はギリギリ水野晴郎さんが解説を努めていた「古き良き金曜ロードショー」であった。久石譲の美しいBGMと、幻想的な獣神の姿はそれだけで面白そうだった。
ただ、96年の暮れくらいからだろうか、我々は毎週金曜日になると延々「もののけ姫」の特報を見ることとなる。もちろん特報映像というものは本編のシーンの中で、人を引きつけるシーンをわざわざ選んで使うわけだから、ものすごく魅力的に映るわけである。しかも短時間なのでものすごく胸に響く。当時小学生だった私には自分をコントロールすることなど不可能であった。
とはいえこれだけなら週に一回のことであったので、期待値が無限大になるようなことはなかったかもしれない。しかし「もののけ姫」のCM攻勢は「金曜ロードショー」だけではなかったのである。
日本生命とのタイアップ
「もののけ姫」のCM攻勢の本質は日本生命とのタイアップである。これがあったせいで、四六時中米良美一さんが歌う主題歌「もののけ姫」を聞く羽目になった。またその歌が素晴らしいものだから、私の中で米良美一さんの歌のイメージで映画「もののけ姫」が脳内で構成されていった。
このように苛烈なCM攻勢によってある種のお祭り状態になっていたことも、「もののけ姫」の興行収入、少なくとも初動の一因となっていたかもしれない。ただ、それだけで200億近くの興行収入は実現できないだろう。
これまでの作品の成功と「もののけ姫」の難解さ
「もののけ姫」以前の作品の成功
単純に「興行収入」という観点から見ると、ジブリ作品がようやく成功を収めたのは「魔女の宅急便」である。その興行成績は26.5億円であった。驚くべきことに、みんな大好き「となりのトトロ」は11.7億円と興行収入的にはうまくはいっていない。それでもなおその後の金曜ロードショーでの放送を重ねるうちに、国民的な作品となったのである(グッズもよく売れたそうな)。
ちなみに、「アトリエうたまる」さんの「日本テレビ『金曜ロードショー』放送作品リスト」によると、「となりのトトロ」の初放送は1989年4月28日である。それ以前には「風の谷のナウシカ」が86年と88年に放送されており、金曜ロードショーで初めて放送されたジブリ作品(宮崎作品)は「風の谷のナウシカ」のということになる。
更に、「平成狸合戦ぽんぽこ」の興行収入44.7億円も1994年の興行収入で3位であり、国内作品でいえば1位である。また、翌年の「耳をすませば」に至っても、興行収入31.5億円は全体で7位、国内作品では2位となっている(全体の1位はダイハード3、国内はゴジラVSデストロイヤー)。数字ばかり追うのはナンセンスだが、多くの人が当時映画館に足を運んだことは間違いのないことであり、ある意味で「スタジオジブリブランド」が確立しつつ会ったのかもしれない(あるいは明確に確立していた)。
以上のように、「もののけ姫」直前のCM攻勢、それまでのジブリ作品の成功や浸透が、「初動」の原因だったのではないだろうか。しかし、当時の最終的な興行収入である193億円は、多くの人が複数回見に行かなければ実現しない数字である。少なくとも小学生だった私にはそんなことは不可能だったが、なぜ多くの人が複数回見ることになったのだ。
作品自体の難解さ
公開当時は兄と一緒に見に行ったのだが、3歳上の兄は映画館をでるなり「あれじゃあ巨神兵だよな~」と極めて不満そうに言っていたことを憶えている。その後も「結局は人間と自然はわかり会えないってことだよな」と、当時中学生だった割にはそんなに変なことは言っていなかった気がする。
ただ、私本人としてはどうだったかというと「なんとも思えなかった」が正直な感想だったと思う。私の映画館での一番の思い出は、故郷を追われたアシタカが名曲「アシタカせっ記」に流れる中、ヤックルに乗って走るシーンである。ただ、あまりポジティブな感想ではなく、緻密な背景に対してセル画のアシタカとヤックルが浮きに浮きまくっていて「なんか変だな~」と思ったのだ。あのような映像に慣れてしまったせいか、Blu-rayなどで確認してもそんなに浮いているようには見えないのだが、当時そのように思ったことをよく覚えている。
我々の感想は結局の所「子供の感想」にすぎないし、なんかよくわからなくてもそれで放っておける(子供の特権!)。ただ、当時少なくとも大学生以上だった人たちにとっては「何かビンビン来る作品」だったに違いない。複数回見に行くのもうなずける話である。実際私も、時間が立つにつれて色々なことを考えるようになり。「エンドロールの暗さ」、「神殺し」、「カヤの小刀」、「エボシ御前の儚い夢」について記事を書いた。
「難解さ」というと少々ネガティブなのだが、結局の所『もののけ姫』が面白い作品だったからに違いなのだ。
この後、「千と千尋の神隠し」という宮崎作品最高の興行収入を記録する作品が登場することになるが、「もののけ姫」の大成功がその布石になったことは間違えないものと思う(最初の「やめるやめる詐欺」の後だったことも良かったのかもしれない)。
色々と書いてきたが「もののけ姫」という作品を公開当時に小学生として映画館で見ることができたことは誰にも話していない僅かな自慢である。今ではいろいろな方法で公開された作品を視聴できるし、NETFLIX作品などそもそも劇場公開されないものもある。しかし、映画館が存続し続ける限り、「映画館で映画を見る」という体験をしてみるのも良いのではないだろうか。きっとその経験は大切な「思い出」になりますから。
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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