星を追う子ども
「星を追う子ども」は2011年に公開された新海誠監督による劇場アニメーション作品である。新海誠監督の劇場用作品としては4作目であり、すでにファンであった私は当然映画館に見に行った。
作品の冒頭からジブリっぽいシーンやキャラクターの連続で「なんじゃこりゃ?」と思った人も多かったと思う。私もその一人だったが、今回は「なぜジブリっぽいのか?」ということを考えたい。もはや職人技とも言えるレベルでそれっぽいシーンが挿入されており、どう考えても「意図的」である。なぜ新海誠監督は「星を追う子供」を作らねばならなかったのか。
「ジブリっぽい」作品
確かに「星を追う子ども」は「ジブリっぽい」のだが、我々が最初に見た「ジブリっぽい作品」は別に「星を追う子ども」ではない。それはまさしく「ゲド戦記」であろう。
歴史上一番最初の「ジブリっぽい作品」
映画「ゲド戦記」は2006年に公開された宮崎吾朗監督の劇場用アニメーション作品である。原作は「ゲド戦記」だが、実際には「シュナの旅(PR)」と足して2で割ったような作品になっている。
「ゲド戦記」といえば、やはり宮崎吾朗さんが監督をしているという事実そのものが見どころであろう。公開当時はまだ学生だったが「まじか、宮崎吾朗!」と偉そうに考えていたことを覚えている。
そんな「ゲド戦記」だが、過去のジブリ作品っぽいシーンや、宮崎駿監督が関わった作品と似ているシーンが随所に出てくる。もちろんそれは意図的に行われたことと思われる。
ではその意図は何だったのか?それはもちろん想像するしかないのだが、「どうしても自分自身と向き合わなくてはならなかったから」だったのではないだろうか。つまり、自分の中にある「宮崎駿」を否定してまったく違う表現をするのではなく、むしろ自分の中に否応なしに存在している表現を利用することによって、「宮崎駿」を消化するステップが必要だった。そして結局は、そういう営みこそが何かを表現することであり、映画を創ることだと「あの時の」宮崎吾朗監督は思ったに違いない。と、私は思う。
もしかしたら「ゲド戦記っぽい」のかもしれない。
宮崎吾朗監督にとって自分の中にある「宮崎駿」を何かしらのかたちで「消化」することはとても重要なことであったように、新海誠監督にとってもそうだったに違いない。しかも「ポスト宮崎駿」という声も聞かれ始めた頃かもしれない。本人としては「ポスト宮崎じゃなくて俺は俺だ」という思いもあっただろうが、映画監督としての宮崎駿を尊敬していることも間違いないだろう。
そのような状況下で次の一歩を踏み出さなくてはならない新海監督は、「自分の中に否応なしに存在しているなにか」と一度戦うことを決めたのかもしれない。そして新海監督はジブリ作品を「スケープゴート」にしつつ、「自分の中にある何か」を作品の中に入れ込むことにしたように見える。「スケープゴート」の意味は、「星を追う子ども」は別に「ジブリっぽいもの」だけが出てくるわけではないということである。
「漂流教室」の「未来人類」らしきものも現れるし、「スターゲイト」っぽい円環も現れる(映画のワンシーンでどう考えても「ムスカ」にしか見えない森崎がどうみても「ルパン」に見えるシーンがあるが、あれはもはや職人芸であろう)。恐らく我々が気がついていないだけで、それ以外にも色んなオマージュが存在している可能性がある。
そういう意味で、「誰もが知っているジブリ作品」を全面に打ち出して「そういう作品ですよ」と観客に分からせながら、他の作品のオマージュを滑り込ませたのだろう。そういう意味では「ジブリっぽい」のではなく「ゲド戦記っぽい」と言えるのではないだろうか。
「星を追う子ども」は「さよならの物語」であった。新海監督は「自分の中にあるなにか」を作品に登場させることによってそういう存在との「さよなら」を宣言したのではないだろうか。別のいい彼方をするならば「俺を育んでくれた作品たちよありがとう、でも俺は君たちと『さよなら』をして、俺の道を突き進む。じゃあな!」ということだったのだと思う。
「星を追う子ども」の次回作は「言の葉の庭」であった。それはSFでもなければファンタジーでもなかった。それは「秒速5センチメートル」も同じだったかもしれないが、もう一つそれまでにあった「なにか」がなかった。もちろん「天門さんの音楽」である。「ほしのこえ」から「星を追う子ども」までの映画音楽を担当した人が「言の葉の庭」以降の音楽は担当していない。
「星を追う子ども」はそれまでのすべてを振り切って「新たな一歩を踏み出す宣言」だったに違いない。少なくとも私にはそう見える。
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