「君たちはどう生きるか」は2023年7月14日に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品である。
タイトルの元になっているのは吉野源三郎による同名小説であるが、「原作」というわけではなく主人公眞人の母が彼のために遺した本として登場する。その本との出逢いは本編における重要な「段落」となっている。
私は見事に宮崎駿に騙されて「風立ちぬ」で引退するものとばかり思っていたのだが、新作の情報が出たときにはとても嬉しかった。
ただ「なぜ新作を作ろうと思ったのか?」という疑問も当然湧くのだが、ここで言える1つの重要なポイントは、この映画は「眞人のモノローグで始まり、眞人のモノローグで終わる」ということだろう。
つまり、この映画は成長した眞人が思い出している物語であり、彼の主観の物語であるということになる。
今回はそんな「君たちはどう生きるか」のあらすじを振り返りながら、考察ポイントについて考えていこうと思う。この映画はどんな作品だっただろうか?
*以下「あらすじ」と言っても全部話してしまうので、ネタバレが嫌な人は途中まで読んで本編を見てください。
「君たちはどう生きるか」のあらすじ(ネタバレあり)
簡単なポイントまとめ
「君たちはどう生きるか」のあらすじのポイントを短くまとめると以下のようになるだろう:
- 物語の主人公は11歳の少年 眞人(まひと)。火事で母を失い、太平洋戦争勃発から3年後に、父とともに母の故郷に疎開する。
- 疎開先では父の再婚相手で実母の妹である夏子(なつこ)との生活が始まるが、眞人は母の死を消化できず、夏子との距離を測れずにいた。
- 状況に馴染めない眞人は屋敷の敷地内にある不思議な塔に惹かれ、そこを巣にしている不思議な青サギから「母が待っている」と囁かれる。
- そんな折、妊娠中の夏子が行方不明となる。夏子が森に入っていくのを目撃した眞人は使用人のキリコと共に塔に向かう。
- 塔の中で不思議な老人に出くわした眞人たちは「下の世界」へと誘われる。
- 「下の世界」は「上の世界」とは様相の異なる不思議な世界であり、人間のようなインコたちが支配する世界だった。
- 眞人はその世界で青サギ、そしてヒミと呼ばれる少女と協力して夏子を救出する。その中で、ヒミはかつて眞人たちと同じように塔の中で「神隠し」にあった子供の頃の眞人の実母であることが分かる。
- 塔の中にいた謎の老人は眞人の母や夏子の大叔父にあたる人物で、塔の中で「下の世界」を支配していた。
- 大叔父は眞人に自らの後を継ぐように要求するが、眞人はそれを拒否し元の世界に帰ってゆく。
- 戦争終結から2年、眞人は家族とともに東京へ帰るのだった。
ここからは「君たちはどう生きるか」のあらすじをもう少し細かく見ていこう。
喪失の少年と不思議な塔
物語の主人公は11歳の少年 牧眞人(まきまひと)。太平洋戦争勃発から3年が経ったある夜、病院で発生した家事によって入院中の母を失ってしまう。翌年、眞人はその傷を抱えながら父 勝一(しょういち)と共に母方の実家に疎開するのだった。
眞人の新たな生活を父の再婚相手で母の妹である夏子(なつこ)が、お腹の中にいる勝一との子供のとともに迎える。眞人はその事実に複雑な感情を抱きながらも新たな生活を始めるのだった。
新たな生活の中で、消えない母の喪失の悲しみと中にいた眞人だったが、広大な屋敷の庭に住み着いていた青サギに誘われるように、古びた塔にたどり着く。どうやら青サギはそこを巣にしているようだった。眞人は塔に入り込もうとするが、不可思議な内部構造がその侵入を阻んだ。
その塔は夏子と母の大叔父が建てたものであり、その中で本を読みすぎた大叔父は「変になった」と夏子から語られる。大叔父はその後行方がわからなくなった。
夏子や屋敷の使用人は眞人を大切に扱ってくれてはいたが、状況を肯定できずにいた眞人はその不思議な塔に心惹かれてゆく。
青サギ襲来
疎開先で学校に初登校する朝。軍需工場を経営する父 勝一は、眞人を車(ダットサン)で送ると言い出す。
案の定そんな眞人は同級生から目をつけられ、帰り道に喧嘩をする羽目になる。泥だらけで屋敷に戻る眞人はその途中、道端にあった石で自分の右頭部を傷つける。流血しながら戻った眞人はしばらく静養し学校を休むことになった。
傷ついた眞人に夏子を始め屋敷の人びとは優しかった。父 勝一に至っては「学校に怒鳴り込む」と言い出した。
そんな折、自室のベッド寝ていた眞人のもとに窓から入り込んだ青サギが現れる。その青サギは「まひとたすけて」と不気味な声を上げ、去っていくのだった。その不可思議な青サギは、再度眞人の前に現れ「ははぎみのもとへあんないする」、「たすけをまっている」とまで言い出す。
不審に思った麻痺とは、怪しげな青サギと対峙するため、その羽根を使った弓矢の作成を開始する。
塔の中
そんな折、眞人は母が自らのために残してくれた書籍「君たちはどういきるか」を発見。その内容に感銘を受けた眞人は、母の愛情を深く理解すると共にその死を受け入れられるようになってゆく。
時を同じくして、夏子が姿を消したと屋敷が騒然となる。
夏子が森の中に入ってく姿を目撃していた眞人は、使用人のキリコと共に森を分け入って塔にたどり着く。
初めて来たときとは打って変わって、巨大な扉が眞人を誘うように開いていた。その中から聞こえた「おまちしておりました」という青サギの声に導かれるように、眞人は塔に侵入。眞人を心配するキリコも一緒に入り込んでしまった。
青サギに導かれて塔の中央部にたどり着くと、青サギが前にいっていたように、そこには横たわる母の姿があった。しかし、眞人が近づくとその姿はドロドロに溶けて消えてしまう。その様子を見た青サギは「おしいことをしましなあ。いいできだったのに」と告げる。
怒る眞人が放った一矢が、見事に青サギのくちばしに命中。それまで雄弁に語っていた青サギはその力を失い、その姿も鼻のでかい小さいおっさんに変わり果てていた。
そんな青サギに対して「夏子さんのところへ連れて行け」と詰め寄る眞人。
対応を決めかねていた青サギに、塔の上階からなぞの老人が「愚かな鳥よ。お前が案内しゃになるがよい」と告げる。
「しょうがねえなあ」と青サギがその声に応えると、眞人、キリコ、青サギは塔の床に吸い込まれて行くのだった。
下の世界
眞人はゆっくりと不思議な世界の海岸線に降り立つ。水平線には数多の帆船が見えた。
眞人はその世界で一人の中年女性と出会う。魔法のような力を使うその人は、どうやら漁師のようであった。行く宛のない眞人はとりあえずその女性の仕事を手伝うことにする。
近くでその人を見るうち、眞人はその人がキリコであると感じ始める。キリコ本人はそれを否定するが、眞人には確かにそう思えた。
その夜、眞人はその世界にいる「ワラワラ」というまん丸真っ白な存在が、飛翔している姿を見る。キリコによると「上の世界」にいって人間になるそうな。
眞人がその幻想的な状況に感動を覚える中、海の向こうからペリカンたちがそのワラワラを捕食するために飛来する。
そこに、火の巫女「ヒミ様」が現れる。ヒミはその火の力をもってペリカンを退治する。しかし、その火の力を持って僅かなワラワラも犠牲になっていた。
そして眞人は傷ついたペリカンとも対峙する。最初はペリカンに対して悪意を持っていた眞人であったが、そのペリカンとの対話の中で「循環」としての必然に気がついてゆく。そして力尽きたペリカンを丁重に埋葬するのだった。
そんな時、再び青サギが現れる。彼は夏子のところへ案内するというが、眞人は取り合わなかった。それでも、世話になったキリコの言葉に従っい、ふたりで夏子を探しに行くことを決める。
眞人はお守りとして、老婆のキリコに似た小さな人形をもらうのだった。
一方その頃、神隠しのように、夏子、眞人、キリコがいなくなった世界で、勝一はその行方を全力で探していた。
そして使用人の一人から聞き知る。大叔父が建てたと思われていた塔は、明治維新の前に落ちてきた隕石が元になっていたということを。そして、眞人の母 ヒサコも幼少期に神隠しにあっていたことを。
夏子の拒絶
眞人と青サギは夏子が囚われいる場所に向かうが、そこは人間のようなインコ達が支配する場所だった。その状況を突破し、夏子の下へ向かうために青サギが囮になる一方で、眞人は再びヒミに出会う。
眞人がヒミに「夏子という人を探している」というと、ヒミは「妹か!」と応えた。そして、ヒミは眞人を導いていゆく。どうもヒミは状況をすべて把握しているようだった。
ヒミは眞人を多くの扉が並ぶ部屋に連れて行き、その1つが眞人が来た世界につながっていることを示す。ヒミは暗に眞人に帰るように促すが、眞人は夏子を連れ帰りたいという。
そんな眞人にヒミは「夏子は帰りたくないといっている」と告げる。夏子は赤ん坊を産むためにこの「下の世界」を選んだようだ。
それでもヒミは眞人を夏子の下に連れて行くが、眞人は夏子からの痛烈な拒絶を食らってしまう。眞人はそのとき、大人である夏子も「状況」に苦しんでいたことにようやく気がつくことができた。
そして眞人は叫ぶ「母さん帰ろう!」と。
しかし、不可思議な力が2人を再び断絶する…。
大叔父の世界
気がつくと、眞人はインコの調理場に吊るされていた。どうやらインコたちは眞人を食おうとしいるらしかったが、その絶体絶命の窮地を救ってくれたのは、再び現れた青サギであった。
眞人は青サギと共に、ヒミを探す。
一方、どうやら「下の世界」にいるインコ達は大叔父に対して反旗を翻そうとしてるようだった。
インコたちは眞人とヒミが産屋に侵入するという「禁忌」を犯したこと、そして、ヒミも眞人も大叔父の血族であることを理由に大叔父の座を奪おうとしていた(大叔父は血族にのみその座を継がせようとしていた)。そのためにヒミを人質にしていたが、大叔父の訴えを受けヒミを開放してみせた。しかし、交渉にあたったインコの王は次の状況に備えていた。
眞人と青サギは独自に大叔父の下にたどり着くとともに、ヒミとの再会をはたす。
そして、眞人は不可思議の世界の主人である大叔父と対面するのだった。
素敵じゃない!
広大で、不可思議で、人間のように振る舞うインコのいる世界を、大叔父は眞人に引き継ぐように要請する。
それは血族である人間にしかできないことであると大叔父はいう。そしてその世界は崩壊寸前であると。
しかし眞人はそれを拒否する。大叔父が作ってきた世界は「冷たい石」だと。
それを見ていたインコの王は「自分こそが引き継ぐ」と剣をふるうが、すでに崩壊まじかにあったその世界は、インコの王の傍若無人によって崩れ始める。
大叔父は望まなかったその結末をも受け入れ、ヒミと眞人に「時の回廊(扉のたくさんあった部屋)」へ向かい、自分の時間に戻るように告げる。
世界が崩れれるなか、キリコに連れられて夏子もそこに現れる。
「自分の時間」に戻れば、ヒミは自分の母として死んでしまうことをしっている眞人はそれを躊躇するが、ヒミは言う「素敵じゃないか、眞人を生むなんて」。
眞人、キリコ、夏子、ヒミはそれぞれの時間に帰っていくのだった。
…
戦争が終わって2年後。眞人は、父、母、そして弟ともに東京に帰るのだった。
「君たちはどう生きるか」の考察ポイント
優しい父、炎の母、謎の隕石、そして大叔父
この記事の冒頭で述べたように、眞人のモノローグから始まるというこれまでにない演出が合ったわけだが、「息子の父としての父」が明確に描かれたこともこれまでになかっただろう。
正確に言うと「崖の上のポニョ」で宗介の父が登場しているが宗介とのふれあいは全く描かれない。その一方、息子の近くで愛情を注ぐ父の姿がこの映画では描かれている。それはなぜだったのだろうか?
一方で、これでもかと「母」が描かれたことも重要な特徴だろう。これまでの作品の中にも宮崎監督の母が投影されたと思われるが、これほど明確に「母」という存在が中心に出てきたことはなかっただろう。
しかも、亡くなった実母、青サギがつくった偽の母、子供の頃の母(ヒミ)、そして夏子と細かく分けると4パターンの「母」が登場する。これはなにかしらの意図を感じるのだがそれはなにか?
そしてもう一人、何やら意味の分からん存在として出てくるのが大叔父とその心を狂わせた謎の隕石である。
「君たちはどう生きるか」の制作ドキュメンタリーを見ると、大叔父のモデルは高畑勲であることが語られてはいるのだが、はて、そう見えただろうか(青サギのモデルは鈴木敏夫ということも明らかになったが、これは大方の予想を裏切らなかったと思われる)。
私にはどうしても大叔父が高畑勲とは思えなかった。
では、この作品の中に登場する大叔父はどのような存在なのか。そして、あの隕石は何なのか。
その辺のことを以下の記事にまとめている(映画公開当時に割とフレッシュな気持ちで書いた)。
皆さんはどう考えるだろうか。
火事場を走る眞人
「君たちはどう生きるか」における映像的な衝撃と言えばプロローグで火事場を走る眞人のシーンだろう。
「おお!なんかすげえこと始まってぜ~!」と思ったのは私だけではないだろう。
そして、あのシーンこそがこの映画にとっての映像的な挑戦であり「引退」を撤回してまで新作をつくった理由の1つと思われる。
ただ、ここで問題となるのは「なぜその挑戦がひつようだったのか?」ということになるだろう。
理由は色々あるだろうし、結局は作り手に回らないと本当のところは分からないのだが、「印象派」という補助線を用いることで個人的に考えたことを以下の記事にまとめている:
まあ、理由なんてどうでも良いことではあるのだけれどね。
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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